ツイてない叔母が、雨の降りそうな日に自転車で転倒したらしい。
これが友人や全くの他人の話なら、私は心配しただろう。
自転車で転倒なんて、高齢者だったら最悪の場合、骨折する。
私だって高校の時に自転車で転倒した際、ひどい捻挫を患った。
あるいは、膝を派手に血で汚した。
しかし転倒したのが叔母であるから、私は内心冷静だった。
なんせ、雨の日は高確率で転ぶ人である。
歩いていても躓き、バッグの中身を盛大にぶちまけるような人だ。
それが雨の日なら、その確率は倍増するだろう。
ましてや、徒歩でも転ぶ人が自転車に乗っていたのなら、なおさらである。
メールで来た内容によると、転倒した際に傘をダメにしたらしい。
あと、ズボンを破き、膝を擦りむいたそうだ。
傘が駄目になった割に膝の擦りむきとズボンの被害だけとは、ずいぶんの軽傷じゃないか。
いや、確かに傘の方が生身の人間よりも、圧倒的に脆いものだが。
その情報はちょうどお昼時だったので、私は隣の席の方に「叔母が自転車で転倒して、傘を1本ダメにした」と話していたのだ。
その方は心配されていた。
しかし、前述したとおり、叔母は雨の日には結構な確率で転倒している。
私は「雨の日、いや平常の時でさえ、転ぶことはあるか?」と尋ねてみたら、当然の回答が返ってきた。
「大人になったら、そう簡単に転ぶものではない。」
その通りだ。私だって、転んだのはせいぜい高校生まで。
大人になってから、躓くことはあってもすぐに体勢を立て直す。
躓いてバタンと倒れるなんて、子どもがすることだ。
子どもは、まだ身体がしっかりしてないから、それは仕方がない。
それなのに、叔母ときたら・・
毎回、転倒するたびに反省していると言っていた。
それなのに、転倒する回数が減らない。
一体何が原因なのか。
職場の方は、「雨で自転車だと、鉄格子の排水溝の蓋だったりマンホールだと危ないかも。あと白線とかは滑りやすい」
とフォローを入れてくれた。
叔母がどんな道を普段走行しているかは分からないが、雨の日に危険とされるような場所をそれと気づかずに走っている可能性はある。
反省というが、気持ちだけ省みても意味がない。
例えば、どういう道を通っているのか、スピードはどうだ、考え事をしてないか、など。
そういったことを分析して、何が転倒する原因になっているのかを突き止めなければ改善はしない。
叔母の反省は甘すぎる可能性さえある。
兎にも角にも、まずは状況を理解しなければならない。
さあ、どういう状況で転倒したんだ、叔母よ?
「傘をハンドルの所に引っかけて走行してたら、前輪に傘が食い込んで前輪が急停止。後輪が持ち上がって、そのまま倒れた。その拍子に靴が脱げて飛んでった」
・・・想像と違ったわ。
随分とアクロバティックな転倒の仕方じゃないか。
しかも叔母はスピードを全く出しておらず、むしろ雨だから気を付けてゆっくり走行してたくらい。
だからこそ転倒の瞬間が、まるでスローモーションだったそうだ。
スピードには気を付けていたものの、傘という思わぬ伏兵に足を取られた形だ。
しかもこの傘、初めて下した日だったという。ついてなさすぎる。
これはもう、現状の分析だけでは回避できないらしいことが分かった。
何度も転げている代わりに、大きな怪我ではなくズボンと膝の皮くらいで済んでいるのだから、むしろ幸運なのかもしれないと思った。
身代わりとなった傘には悪いけど。