懐かしい本、読んでみる。
今からおよそ10年前、20歳くらいの頃に読んだ本を、10年経った今の私が読み直す。
実は色々、結構は本は読んでました。
今では、あまり小説は読まないけれど、適当に楽しく読んでいた、そんな学生時代。
個人的に好きな作家である中井拓志氏の小説を。(個人的に「アリス」とかお勧め)
・獣の夢
9年前、小学校で起きた所謂「猟奇的事件」をなぞるかのように、再び同小学校で死体が発見されるという怪事件が!
そして、その事件が起こることを、9年前に12歳だったキーとなる少女は知っていた、というストーリー。
1995年から9年後だから、再び事件が起きたのは、2004年ってことになる。
1995年くらいの頃って、パソコンがちょっとずつ普及を見せたくらいの時期かしら。
windows95ってあるくらいだから。そこからおよそ10年後には、一家に1台のパソコンがある家も珍しくなかった時代。
私の小学校高学年~中学生時代は、まだ携帯電話を持っていない子が多く、「帰ったらチャットね」なんて言葉も飛び交ってたくらいだから、おそらくその時代。
2000年前半ってところ。
9年前の事件も、いろんなサイトが作られ、一部のユーザーに神格化されていたみたいで。
それが、今回の事件の鍵でもあるんだけど。
要はさ、インターネットができたから、おかしな思考や世界観を持った人間が生まれたのでなくて、インターネットっていう狭く開けた世界ができたからこそ、これまで自分一人がこっそり抱えていた世界観や考え方が、共有できるようになったんだよね。
そうしたら、そこで仲間が集まって、盛り上がっちゃうわけだ。
しかも、この本の中の世界では、そうした世界がアンダーグラウンドとして存在していることを、メディアが「なんということでしょう!」なノリで、白昼堂々と報じてしまったから、関わりのなかった人達までもがアクセスするようになって、ますます混乱を極めていく。
読んでいる読者は、「アンタ等メディアが、誘発、炊きつけてるせいやん」って、誰もが思ったことでしょう。
こうして「獣」という意識の集合体というか、雰囲気みたいなものが、どんどん広がっていく、そういうお話。
大学の頃に読んだときは、動きはないけど勢いがある、おもしろい話だったなぁ、てなくらいで終わらせてた。ストーリーも正直、覚えていなかった。犯人すら、記憶から飛んでたしね。
改めて10年越しに読むと、いろんな時代背景や、今の時代のことも含めて、考えられた。
こうして文章にしているせいもあるけど。
私が読む本の多くって、メディアがどこまで報じるべきか、っていうのがよく出てくる。
現実としても、確かに事実を事実として伝えるのが正しい在り方。
しかし、それによって触発される事件も多い。
模倣犯が増えて、解決を妨げる恐れもある。
この本ではない同著者の別作品にも、そういうことがあったし、現実としても、著名人の自殺をどこまで報道するか、っていう課題もある。
まあ、ワイドショーがやってるのは、あれは報道なんかじゃなく、エンタメですけど。
はて、真実を伝える義務感って何なんですかね。正義感?
目立ちたいの間違いでは?
とにかく、そんな感じで、収集のつかない事態に陥っていくミステリーです。一応ホラー文庫から出てるんで、ホラーミステリー。
この本は、中井氏の著作の中でも薄い部類に入るので、とっかかりには良いですよ。
『獣の夢』 中井拓志