時にひきこもる思考

考察とnikki 一言で言えば、ただのエッセイ

この主人公は、ただのブラコン(ひきこもりの弟だった)

たまには軽い読み物でも、と図書館で手に取った1冊。
「ひきこもりの弟だった」という本。

主人公は青年。

5歳上の兄が、子どもの頃から家から出られない引きこもりで、なのに、母親はそんな兄にばかり優しい。

それに納得できず大学入学と同時に家を出るも、心に残った何かは消えない。
まともに頑張ってはみるものの、人と、自分を愛せない。

幼い頃から引きこもりだった兄の存在は、主人公に多大な影響を与えていた。

そんな主人公がなぜか偶然にも結婚できてしまい、誰かと同居することになったお話。


まともに生きることを絶対的に正しいと思う主人公。

だからこそ、互いに依存し、甘やかし合っているようにしか見えない母と兄が許せず。

将来、お荷物になって自分にのしかかってくることが分かり切っているから、家を出ると同時に捨ててきたはずなのに、そんな兄のことがずっと心から消えない。

自分の価値観だとか、いろんなものを、兄、そして母に縛られている。

 悲しい主人公だった。

 学生時代は、いつも一人で悩んで苦労している。

兄のことを、誰より心配しているらしい。

最後の方、母との会話で「あの子は人より繊細なだけだ」と、実は密かに精神病院に行き、話し合いも親子の間で行われていたことを知る。

知らなかったのは、主人公だけだったと。

誰より気にかけていたのに、実はずっと主人公は蚊帳の外。

 

引きこもりな兄のことをまとめよう。

そもそも、小学生の頃から学校に行けていない状況自体、何かある。

単なる怠惰ではない。
学校も何かしらの手段を講じてくれてただろうけど、それすら無理なんだろう。

母にとって、おそらくは兄の方を気に入っている。

そんな母の目からすると、とりあえず一通りのことができる弟・主人公が、できないけど優しい兄をいじめているように映ったかもしれない。

それくらい、兄と弟とで態度が違う。

母が家で兄のことを異常に褒めるのは何もできない兄だけど、せめて家でできたことを褒めることで、自尊心を伸ばしてやりたいという母なりの思いがあったのかもしれない。

(いや、あの母に限ってそれはなかっただろうな)

あるいは、なんか根本的に主人公を嫌っていて、あえてそういう態度をとって当てつけていた可能性もある。

結局最後まで、厳しい愛を向けることができなかったね。

まあ、あの母では、そんなことは不可能だろう事なんとなく想像つくけど。互いに傷をなめ合う、まさにお互いを傷つけない「やさしい」関係というやつだ。

(以下を参照→やさしさとは、ぬるま湯だ(やさしさの精神病理) - 引きこもる思考

 

兄はできない自分、そしてこのまま年を取っていく恐怖を感じており、でも今更どうにもできない苦痛に追い詰められる。

学校すら、行けなかったもんね。

自分で、今の生活に区切りをつけるのって、大変なことだ。

 

兄の恐怖が、まったくもってよく分かる。

終わらせたいのに、今更、自分の手で終わらせることができない。それをするには、遅すぎた。

だからこそ主人公が持ってきたバイトの話は、兄にとって最後のクモの糸だったんだよなぁ。

クズで自分のことしか考えてない母によって、無残にも切られたけど。
そう考えると、兄にとっても母は立派な母ではなかったらしい。むしろ最低だな。

あとさ、ものすごく単純な疑問なんだけど、この主人公は、兄に変わって欲しくて何度も掛け合ってたけど。

それは、将来、自分に重みがのしかかってくるから?

子どもがいらない理由も、もし兄みたいな子どもに育ったら、が怖いから?

それとも、家族を切り捨てた自分への罪悪感?

 

いや、そもそもなんで、この主人公は、こんなにも思い詰めてるんだろう。

自分が引きこもりになって悩んでいるならともかく、ただの兄貴が当事者なわけで。

自分はむしろ、兄とは違って推奨される人生を順調に歩んでいる。

確かに家庭事情は複雑だけど、仕事もあるし家事もできる。
十分に生活できている。

・・・?

どちらかというと、彼の苦悩は、幼少期に母親に疎まれているのではないか、という疑惑から来ていると思うけど。いわゆる、精神的虐待。

一度も褒められたことがない、それに対して、兄は母をよく助けてたから、よく褒められて。

いつしか、それをズルいと思うようになり、それと同時に兄のことを心配して。いつだって兄のためを思っての言動が、ことごとくピシャリと否定されるものだから、主人公の方が実はおかしくなっていた?

この主人公が人を愛せないのは、別に兄が引きこもりだからというよりは、やはり母から嫌われているのは自分、という事実のせいだと思う。

自分は頑張ってるのに、頑張っていない兄の方が母から好かれているという事実に、やるせなさと許せなさを感じてるんだろう。

だからね、この主人公が子どもが欲しくないのは兄がどうのじゃなくて、愛されなかった自分が人を愛するなんて理解できなくて恐ろしい、ってことだと思うんだけど、違いますかね主人公?

ちょっと一回、あなたの方がカウンセリングに行った方がよろしくないですか?

こういう問題だとさ、つい引きこもりの当事者に目が向けられるけど、実はそれを周りで見ている家族にも影響が及んでいるから、ある意味家族単位でカウンセリング的なことをやった方がいいかもよ、とアドバイスを送りたい。

親の愛情、むしろ虐待問題を、引きこもりの兄に問題をすり替えてるから、なんかこの主人公はややこしく拗れてしまってる。

ねえ、そうでしょ主人公?

あるいは母なんかより、兄の愛をもう一度自分に向けてほしかった?

ああ、そういやこの主人公は、母ではなくて兄に育てられたんだ。
親=兄だったね、最初から。

 

結局、この主人公は愛に飢えてた、ただの子どもだったわけだ。

・・・そりゃ子どもを欲しがるわけがない。
(というか、年齢を計算すると24くらいだってよ!30くらいかと思ったわ。)

別に、子どもを欲しくないと真剣に悩む必要なんて、ありますかね?

いらないなら、いらないで別にいいじゃん。
兄のことを引き合いに出してまで主張する話か?

最後、いつのまにか勝手に幸せになってたけど。

この主人公にとって、転機はなんだったのだろうって考えると、どう考えても元妻ではなく、兄なんだよね。

そう思うと妻の存在感の無さに泣けてくるけど、この主人公は最初から最後までただのブラコンだった。

それが兄の死で、そこへ向けてたエネルギー回路が切れただけ。

吹っ切れたおかげで改めて妻の可愛らしさを知れて、好きという感情を見つけられて、その感情を持って出会えた誰かと結ばれた、としか。

どんだけその心、兄に占められてたんだよ・・・これをブラコンと言わず、なんと言えばいいのか。

元妻・千草のこの本での役割は、主人公に兄の手紙を渡すことでした。

『ひきこもりの弟だった』 葦舟ナツ